サメのジャック──
切り裂きの名で知られるあのジャックが名前の由来である。
この辺りに生息するイタチザメの中の一匹だが突然変異で体長は普通の二倍近くある為特に恐れられていた。
自然界で突然変異が起こる要因は薬物の流出を除いて急激な温度変化が考えられる。
卵として母体を離れ、徐々に始まる細胞分裂の最中にそれらの環境変化を受けた卵が通常の二倍三倍に成長する事がある。
それを倍数体と言い、まさにジャックはそれだった。
海底の温泉の噴き出し口にでも流れ着いたのだろう。
そうした偶然がこの海を殊更危険な物にしたのだった。
ジャックは大きさのせいもあって食欲旺盛で、魚と違って痛覚にのた打ち回る哺乳類を好んで狙っているのだ。
ただサメの習性としてでなく本当に身を引き千切るのが趣味らしい。

『体だけじゃなく脳もデカクなりやがったか・・』

仲間が何人も犠牲になった為にイザークは酷くこのサメを恨んでいた。
そして自身も何度も危ない目に遭ってきている。
真っ白な体のイザークはある意味鮮やかな色より目立っていたのだ。

イザークといつも行動を共にしているイルカのフィリィはそれを救う為に怪我をした事もあった。
胴に未だ表皮が少し抉られたような傷があり白く変色している。



「隠れろ!底に張り付いてじっとしているんだ」
イザークはそう言うなり素早く海底まで辿り着いて動きを止めた。
ディアッカは焦る。
なにせ水の中では満足に呼吸すらできないのだ。
いざとなったらこの鈍い動きで避けられもしないと思う。
逃げる事など到底不可能だ。
しかし周りに陸も無いので仕方なく言われた通りに海底に横たわった。
恐ろしい顔つきのサメが自分の上を通る。
その影と一緒に見える水面の光が遠くあり、サメがとてつもなく邪魔をしていた。
そぞろな気分で観察すると歯はいかにも噛み付かんとばかり外側を向いている。
しかも顎は上下とも厚く、とてつもなく頑丈な様子だった。
30秒もしないうちに耐え切れずゴボゴボと口から空気が漏れていき、もう限界だった。

苦しい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ディアッカの中で二つの事象を天秤にかけて激しい葛藤が生じる。
此処から動いてはいけない、しかし空気を吸いたい、しかし動けばサメに食われる・・だがもう限界だった。
サメに噛み付かれるのも嫌だがこのまま水の中で死んで行く方が嫌だという衝動が止められず水底を蹴ろうと立ち上がった。

苦しい苦しい苦しい・・・空気空気空気空気空気空気・・・───

もう息をする事以外は考えられない。
それを見たイザークが厳しく制する。
「おい、まだ動くな!!」
しかしディアッカは言う事など聞いていられない。
尋常でない様子にイザークは気付く。
「・・・そうか。お前は息が出来ないのか・・!」
イザークは肩をなんとか押さえるとディアッカに唇を押し付け、口を開いた状態で密着させた。
『これだから人間は・・』
イザークは水中の気泡から取り込んだ空気をディアッカに与えた。
勿論吐く息には酸素は少ないので苦しいままだが何も無いよりはマシだった。
ディアッカはイザークから酸素を貰っておとなしくなる。
目を閉じてそうしているとサメがいる事まで忘れそうだった。
しかしイザークの方はしっかりサメの動きを追っていた。



「・・・・行ったか・・・・」
イザークはほっとしてサメの消えた方向から視線を外すとディアッカに空気を送るのを止め、海面に上昇する。
ディアッカもそれに続いた。
水面上に出ると大きく息を吸い込んで顔にまとわりつく海水を払い、思う存分深呼吸をしてからディアッカは口を開いた。

「助かった。ありがとうな・・」
「いや別に・・」
妙な間があり、その理由を思い当たってディアッカは照れた。
イザークは居心地悪そうな顔をしている。
言うなれば人工呼吸のような物なのだが相手の意識がハッキリあった事もあり、また年齢が近いだろうとも思われるので仕方のない事
だったと割り切れない心境だった。

「なぁ。キスした事ある?」
ディアッカが微笑を浮かべながら訊くとイザークは顔を赤くして怒り出した。
「ふーん・・その反応は、初めてって事?嬉しいな」
「あんなの、キスに数えない!!そういうもんだろ!」
猛然と反論するイザークだがディアッカは口元に笑みを作る。
「じゃあ何で赤くなるの?」
ディアッカはまた逃げられないように両手をしっかり握ってから意地悪な事を言った。
答えられないイザークへの距離を詰める。
「じゃあ”キス”してみる?」
それこそ唇が触れるほど至近距離で囁くと手を片方ずつ放して今度は腕を背に回す。
イザークは怒ったような顔をするが嫌がってはおらず、抗いもせずにディアッカからのキスを受けた。
「ん・・・」
どちらともなく微かに声を漏らし、徐々に深く合わさっていく。

「イザーク?」
ディアッカは沈もうとする腕の中の体を支える。
「どうしたの?」
イザークは無言のままディアッカを睨み付けた。
涙が零れそうな程目が潤んでいる。
「あ、力抜けた?島に戻ろうか」
胴を抱きかかえて泳ごうとすると「自分で泳げる」とイザークはディアッカから離れた。

「それにしても危ないな・・。何か武器とかないの?」
「ん?ああ、この前拾ったのがある」
そう言ってイザークが見せたのはナイフ。
手入れをしてあるらしく鋭利な物ではあるかもしれないがこの長さでは不安だ。
「爺さん銛か何か持ってないかな」

一度船に戻ったディアッカは希望通り銛を持って戻ってきた。
「よーし、とりあえず魚でも獲るか」
銛を構えてポーズを取って見せるディアッカ。
「馬鹿!!まだアイツが近くにいるかもしれないんだぞ。サメの鼻はハンパじゃない!魚の体液だって感知出来るんだよ」
「ふーん・・」
冗談のつもりが怒られてしまいディアッカは少し拗ねた。
しかし綺麗なイザークを見るとすぐ上機嫌になる。

それから再び島でのんびりと時間を過ごした。
少し探索してみると島の反対側には入り江があり、凸凹の地面に所々水溜りが出来ていた。
イザークはその中に下半身を浸し、ディアッカは打ち上げられて満ち潮まで戻れなくなった小さい魚を飽きもせず眺めていたがそれが
珍しくもないイザークは寝転がって頭の下に手を組んで空を見る。
乾いた空気に日差しが中和されて止む事の無い風が体表を冷やすのでとても涼しく快適だった。
しかし半身を水に浮かせながら胸を僅かに反らせ脇まで見せて目を閉じているイザークを見てディアッカはとても爽やかな気分のまま
ではいられなくなった。
覆いかぶさりたい欲求を抑える事だけを考えてしまう。
腹の筋を指先でなぞろうとして思いとどまり、小さく声をかけてみる。
「イザーク・・・・寝てるのか・・・?」
返事はなかった。
規則正しく上下する胸は寝ている証拠なのだろう。
何もかも白いイザーク。
顔も胸も、その中で殊更白い髪は殆ど乾いて風になびいている。
もう一度イザークの顔を見てみると唇が薄く開いていて、こっそり口付ける。
それから半時ほど水中で揺らめく尾鰭とその周りを泳ぎ回る魚を見つめながら過ごした。

一層風が強く吹いてそれに起こされたかのようにイザークが目を開いた。
「おはよう」
ディアッカが声をかける。
しかしイザークはそれには返さず呟いた。
「水音だ・・」
ディアッカが首を傾げる。
此処は海なのだから波の音は常に聞こえている。
360度囲まれているのだから当たり前に思える。
しかしイザークは一方に耳を澄まし、目を凝らした。
「・・?」
ディアッカには何も見えなかったがイザークにはフィリィが飛び跳ねているのが見えた。
その飛び方はやたらと間隔が狭く、慌しい。
けたたましく波が散っているだろう事がうかがえる。
様子がおかしい。
「まさか・・・」
「何だ・・・・!?」
「アイツに追われているんだ!」
イザークは海に飛び込んだ。
フィリィはすぐそこまで来ていた。

イザークが現れた事でフィリィは慌てて方向転換をしようとしたが間に合わず、咄嗟に方向転換をし、ジャックに体当たりをするが
大きさの違いから全く効き目が無く、逆にバランスを崩したフィリィは襲い掛かってきたジャックを避ける間もなく背びれを食い千切られた。
高音が辺りに響き、海の色が薄赤くなった。
ディアッカは唖然とそれを見ていた。














continue











***



今回の補足説明(長)

倍数体の知識はた○しの万物創世記を見て覚えました。
倍数体の起こる原因には温度、薬物の他に圧力ってのもあります。
何か4つ位あったようななかったような;
多分そんな感じだと思うのですが鵜呑みにしないように。
それでどれ位の量の酸素を吸ってどれ位の二酸化炭素を出すのかわからんです;
元々空気中には色々混ざってるからややこしいな〜(私の頭には)
そして人魚はどうやって水中で呼吸しているのか・・そこがわかりませんでした。
口から気体が出るのかもわかりませんで;
えら呼吸なのか肺呼吸なのかそれとも肺魚みたいな感じなのか・・どうすべきか・・・まぁ同人的に都合いいようにしてしましましたが。
サメはねぇ・・・もう憎たらしいほどに凄いですよ。
歯はなんぼでも生えてくるしガンにはかからないし繁殖能力は優れてるし振動とか生態電流って何よ!?とか思ったけどそんな物まで
感知出来るらしいよ。
大昔から進化せずに生き延びている生物ってのは生命力は勿論子育て、この場合卵のカモフラージュの仕方などが重要らしい。
とりあえずサメはスゲェ奴だって事を調べてみました。
でも目は悪かったみたい。
すんまそん。
でももしかしたら目が悪い方が明るい色が目立つかもしれないななんて・・
所で悩んだのがイルカの名前。
イルカっつうと名前に「フ」が付くんだとか勝手に。(ホントに勝手だ・・・)
イルカと言えばフリッパーなので。
ついでにフリー・ウィリーとか思い出し、「フィリップ」にしようと思ったがあまりに恥ずかしく・・(世界のフィリップさんごめん)
結局ハンパなブレンドでフィリー→なんとなく「フィリィ」に。
ジャックなんか手遅れですがあんま人間くさい名前もどうかなとか。
本当に・・・・・・・・・・・・・名前付けられなくて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すみません・・・・・・・・・・・・・・・・・








BACK NEXT



本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース