「えぇ〜〜!?何コレ・・・・」
ディアッカは呆れた。
「これに乗って行きます」と言われて指差された船は昔ながらの木製でおとぎ話のうさぎが乗っていた程度の作りじゃないかと思われる
ような代物だった。
アスランもてっきりモーター付きのボートが出てくるものだと思っていたので呆気にとられている。
「うるさくすると来てくれないんです」
「ふぅ〜ん・・」

二人は周りを見回してみたがどう見ても参加者は自分達だけだった。
しかも案内役は田舎くさい爺さんだ。
「まぁ・・本気で人魚がどうのこうの言ってるような広告なんてこんなもんかねぇ・・・」
「でも安いからそれだけでも来ると思うんだけどな・・」
そんな事を言っている間に船が海に浮かんだ。

「そんなボロ船に乗ってどこ行くんですかぁ?」
いざ海へ出ようという所で浜辺を付近を泳いでいた一人の少年がお節介にも船に向かって話しかけてくる。

「人魚ツアァ〜?!何ソレ?」
「言葉通り、人魚に会いに行くんだ」
アスランが仕方なく教える。
途端オレンジ色の髪の少年は笑い出した。
「あはははっ マジ!!!?そんなもんいるとか思っちゃってるワケ?」
そう言って砂浜にいる連れであろう二人の青年の元に戻っていく。
「ま、俺ら自身信じてないし・・」
「そりゃ聞いたら笑うよな・・」
砂に埋まっている青年は相手にしていないようだった。
水着も着ないでパラソルの下で本を読んでいた青年も興味なさ気に追い払っていた。
ディアッカは「あーあ・・」と呟いた。



昨夜──

「悪ィ!夏期講習あんの忘れてたんだよ〜」
「えぇ?」
直前になってのミゲルからの電話でアスランは間抜けな声をあげた。
電話を切ってため息をつく。
「何でそういうの忘れるかな・・」
勿論ラスティも同じく講習がある。
こういう訳で結局ツアーに参加したのはアスランとディアッカの二人のみだった。



緩やかにだが確実に海の中心に近付いていく船。
波が小川のせせらぎとまでもいかなくとも涼しい音を立てている。
とことん自然派と言うのもそれはそれで良いと思えてきた。
そうしてようやく辿り着いたといった感じに船が軋んで止まった。

「ここで待ち合わせしているんですが」
「待ち合わせ!?」
そんな事が出来るのか、そしてこのジジイは正気か?と二人は思った。
しかし人魚と言うからには上は丸きり人間のはずなのだからコミュニケーションが取れてもおかしくないという事では納得できる。
「それで、何時に待ち合わせてんの?」
「正午ですよ。と言っても日が一番高い位置に来る頃という曖昧な基準ですが」
「ふーん・・」
ディアッカはそれまで船の上に待機してるつもりなのかと思いつつ海を覗き込んでみるが何も見えない。
アスランはおとなしく座って空を見ていた。

『やっぱ人魚なんている訳がないよな』
水面を掻き混ぜながら思い直し、このままでは埒が明かないので泳いでもいいか聞こうと思った。
その時 一匹のイルカが10m程先でジャンプしたのが見えた。
「おっ、イルカだ!見たか?」
「ああ」
うっすら感動していると何時の間にか間近まで来ていたらしく、今度は船の上を飛び越えた。
「おぉ〜〜〜っ!!」
ディアッカが歓声をあげる。
反応が今ひとつ鈍いアスランもさすがに喜んでいるようだ。
イルカは船の下を通ってまた元の方向へ戻っていった。
「もうすぐ来ますよ」
爺さんが予言の如く言う。
イルカがだろうか。
それともまさか人魚──
「さっきのイルカは相棒といったところだよ。危ない人間じゃないか確かめに来たんだ」
『やっぱり本気で人魚の話だ・・』
ディアッカはつっこんでいいものかどうか考える。
しかし自分から参加した癖に疑う素振りを見せるのもどうかと思ったので何も言わないでおいた。
イルカで一瞬忘れていたが一応メインはいるかどうかもわからない人魚である。
爺さんが見ている方向に目を向けてじっと見ていると白いものがスーッと向かってくるように見えた。
「?」
白いイルカでも出たかと身を乗り出して見てみるがどうやらそうではないらしい。
ディアッカはイルカを見た時以上に鼓動が高まっているのを感じた。
イルカの見事な流線形とは似ても似つかない凹凸の多い体──正に人間だ。
そしてびっしりと鱗が敷き詰められているだろう半身。
先の方に薄い膜が見えた。
少し警戒するようにゆっくり船に近付き側まで来ると頭だけが水面から出た。。
暗闇で生まれ生活してきたかのような白い髪に目が釘付けになる。
細く艶のあるそれは絹のような髪とはこの事かと思わせる。
体も相当薄い色素のようだ。
そこから覗く青い眼は海より深く澄んだ色に感じる。
唇も鼻筋も全てがディアッカを惹きつけていた。
所謂一目惚れという現象が起こっているんだとディアッカは確信した。
この先こんな事が起こるとは思えない。
それ程人魚の美しさは半端ではなかった。
夏の太陽の下がどうの若さがどうのと言う問題ではない。



「なんだ、クルーゼ先生はいないのか」

つまらなそうに人魚が言う。
こちらは感動で言葉も出ないと言うのに酷な話だ。
心のうちで既に大絶賛の言葉を繰り返していたディアッカの脳裏を一気に仮面の男が占めた。
『まさかこの子先生が好きだったりしちゃったりなんかするの!?』
もう人魚を見たとかいう観点から外れまくった思考になっているディアッカ。
はたと気付くと確かに上半身は人間で下半身は魚のようなひれがついているのだが、どうも胸の膨らみが足りない気がする。
「あのさ・・・・貝は付けなくていいの?」

「は?」
「いやだから・・乳首丸見えだけどいいの?人魚って実はノーブラだったり・・ッ!?」
音速でディアッカの頬に拳が飛んできた。
平手打ち位されてもおかしくないかとは思ってはいたがモロに殴られたディアッカは相当の衝撃を受けていた。
アスランも後ろで吃驚している。
『綺麗な顔して凶暴』
この生き物にぴったりの言葉だった。
「貴様も言うか!!仲間にでも間違われたりするけどなぁ・・言っとくけど俺は男だからな!!!」
人魚と言えば女の顔を思い浮かべるのが普通だろうがある程度の長さがある髪は男としては少々不自然な事もあった。
そしてこの容姿とくれば失言があっても仕方の無い事とディアッカは思う。

「ごめん。あんまり綺麗な顔してるんで・・」
「・・・・・・・・・・」
その人魚は何とコメントしていいのやら・・と言った風に機嫌悪そうに顔をしかめた。
何とかこの空気を変えなくてはとディアッカはとりあえず自己紹介をする事にした。

「俺はディアッカだ。お前は・・?」
「・・イザーク」
「イザークかぁ・・。よろしく♪」
ディアッカが上機嫌に言った。
「俺はアスラン。よろしく」
直後何時の間にか手前に来ていたアスランがイザークに微笑みながら自己紹介をする。
ディアッカはちょっとマズイと感じた。
アスランは容姿からいって絶対ウケが良いはずである。
端整な顔で無口で真面目で優し気だなんて女なんかまずなびくに決まっている。
イザークにそういう趣味があるとも思わないが予防線を張っておく必要はあるなとディアッカは思った。

「アスラン・・ちょっと・・・」
ディアッカがアスランを手招きして内緒話の体勢に入った。
「お前イザークの事どう思う?」
アスランは「え?」と言う顔をしたが「綺麗な子だなぁって・・」と言ったのでディアッカは必死で「それだけか?」と問い詰める。
アスランは「はぁ・・まぁ・・」といった反応だったのでディアッカはハッキリ言ってやる。
「あのさ。俺イザーク狙ってるから、お前は他のにしろ」
「はぁ??」
全くその気がなく、そんな事を思い付きもしないアスランは呆れかえるばかりだった。
「とにかく、そういう事だ」
「はぁ・・・」
アスランは腑が落ちないという顔ながらも了承した。

「オイ・・帰っていいのか!!?」
イザークは折角来てやったというのに放っておかれている状況に怒ったようだ。
ディアッカは慌てて謝る。
アスランもなんとなく謝っておいた。
『プライド高し』
ディアッカのイザーク情報が一つ増えた。

「ま、ここじゃなんだし?イザークのお気に入りの場所なんて案内して欲しいな」
「別にいいが・・人間なんてそんな深く潜れないだろ?」
どうやら場所は海の中らしい。
「じゃああの小島なんかに行ってみない?椰子の木みたいなのが生えてるところ」
適当に発見した島を指差して言う。
まぁいいだろうと言う話になり船でそこまで行って貰う事にした。
ついて泳ぐからいいと言うイザークをディアッカは強引に船に引っ張り上げた。
「いや・・泳がせるの悪いと思って・・」
と、ディアッカは言うが「泳ぐのなんて慣れてるに決まってるだろ!」と怒られる。
アスランは茫然とそのやりとりを見ていた。

島に着くとそこは遠目に見たより広く小さい浜のようになっていた。
船から降りるとイザークは陸に頭を向けて浅瀬に腹這いになった。
先程のイルカもついてきていて、横に並ぶ。
アスランはディアッカがイザークの事を言っていたせいか、元々人魚に興味が無いのか、イルカと遊び出した。
爺さんは少し離れた所で船に乗せていた釣竿に生餌を付けて海に垂らして魚を待っている。
ディアッカは波を楽しみつつイザークに話しかける。
「あのイルカ、友達?」
「まぁ、友達って言うか幼馴染ってところだ」
「ふーん」
イルカと人魚が幼馴染なんて事もあるのかとちょっとした違和感を感じつつ一応納得してみる。
暫くすると太陽の熱で髪の毛が乾き始めた。
大きなかたまりになっていたそれが一本一本解れてくる。
それを見てディアッカが言った。
「髪、乾いたらサラサラしてそうだな。でも人魚って乾いたら駄目だったりするの?」
「ああ、鱗は乾かしちゃいけないって言われてる。でも上は大丈夫だ」
なるほどね〜とディアッカは想像通りの事実に満足する。
「髪は売買できるんだ」
人魚にとっては日常らしく、何気なく言われて思い出す人魚姫のストーリー。
妹を救う為に人魚姫の姉達は自分の髪を切って魔女に渡すのだ。
つまり何かしら価値のある物なのだろう。
「へぇ。イザークの髪なら高く売れそうだな」
色とりどりの美しい髪も良いが今はイザークの白い髪の方が魅力的に思える。
「まぁ白は珍しい方だからな」
「俺買おうかな」とディアッカが言うと、イザークは食料と交換だがお前に魚が取れるのかと言った。
「それは・・とりあえず素手では無理だけど。・・お土産にくれないの?」
ディアッカが苦笑混じりに言う。
「最初からそう言わせるのが狙いか?」
イザークは「俺の髪をタダで貰おうなんてあつかましい」という風に唇を山形に曲げた。

そうやって延々と会話している二人を見てアスランは『イザークはともかくディアッカはその気みたいだし邪魔しちゃ悪いかな』と思い、
あのイルカはイザークの傍を離れないつもりらしいし他に人魚もいないようだと見てひとり遊泳する事にした。
とりあえず元いた陸に向かって平泳ぎでゆっくり進む。
肩に波が緩やかに流れ、気分も良く順調に進んでいく。
しかし不意にアスランは足に妙な感触がある事に気付いた。
『海草か何かが絡んだのか・・・?』
最初はそう思ったがその力は徐々に意志を持って足に絡み付いてくる。
その奇妙な感覚に我慢できずアスランは泳ぐのを止めて水の中を覗き込んだ──








continue










***



今回の補足説明

オレンジ髪は当然クロト。
埋まってるのはシャニ、本を読んでるのはオルガ。(まんまだ)
何歳から何歳までが少年で青年なのかわからんのですがとりあえずクロトはガキみたく思われているようです。(私が思ってるだけか)
中学生位かな。
シャニは微妙ですがオルガは大学生で。
あの3人が海の家とかやってたら面白いかも。
クロトは喋ってるだけ、オルガは焼きそばばっかり焼いてたりビール飲んでたり。
シャニは黙々と品物を運んでそう。(いや、仕事するのか・・?)
行きたいような行きたくないような・・
従者付き?でエセな感じのディズニーアニメ風になりました;
人魚姫風かなと思ったけど話に魔女は出てこないのでただの人魚の話って事になるな。
でも髪の話はかなりこじつけてます;
そしてラブラブな感じを書くのは果てしなく苦手・・っつーか甘いのってどうしてもただの馬鹿って感じで;
人のを見るのはともかく自分がやると何だかなー・・
しかし子供の頃は純粋に遊びに行ってただろうに。
目的が泳ぐ為に海に行く→ナンパの為に海に行くになってません?
間違ってんだがある意味正しいんだか・・
ここ数年(っつーか十数年?ι)海に行ってないながらちょっと疑問に感じてみた。
いや、俺はしないよそんな事。
されもしないし。(寒)








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