約束





「真田さん!」
「何だ赤也」
笑顔で走り寄ってきた赤也に真田は『忙しい』というような顔で返す。
「もう!何でそんな顔なんスか!!」
赤也は不満そうに言うが真田は全くその感情に気を使う様子はない。
「普通にしているだけだ。お前はそんな事を言いに来たのか。もう昨日の事を忘れたのか?少しは精進しろ」
そう言われると途端赤也は項垂れた。
「弦一郎………折角癒えかけている傷を抉るのはどうかと思うぞ。次の試合は明後日。しかも青学と当たっているのだから」
「うむ……しかしそういう状況だと言うのにこの浮付いた態度はいかんだろう」
「……だそうだが?」
柳は一度は庇ったもののもうフォローしてくれるつもりは無いようで、赤也は唇を尖らせて退散するしかなかった。

「何なんだよあのオヤジ!」
赤也は真田の元から離れると一人で陰口を叩く。
しかしブン太はそれをしっかり聞いていた。
「あっれ〜聞こえちゃったんだけど。言っていいんかな〜真田に」
「ブン太先輩!止めて下さいよ!!また殴られちゃいますって!」
赤也は心なしか青くなって懇願する。
「言っとくけどなー俺と真田は同学年なんだぜ」
流石に可哀相だとブン太は言っている。
「いや〜でも外見的にどう見ても………とにかく勘弁っス」
弱みを握ったブン太はふふんと鼻を鳴らして赤也の方へ手を差し出した。
ぷーっとガムが膨らんで甘い香りがしてくる。
「…常識ある人間としては当たり前っスけど、お菓子は今持ってないっス」
「生意気!じゃぁ口止め料、体で払って貰おうか」
「えっ…ちょっ…止めて下さいよ〜〜〜」
ブン太から頬にキスを貰った赤也は何か違うし…と思いつつ甘い香りに少し気が緩んだ。
そうでなくとも本気で怒る事は無かっただろうが。

決勝戦前の練習は普段より長くなり、薄暗い空の下解散となった。
赤也がのんびりと着替え終わるとレギュラーの殆どは部室から出た後。
実はわざとだったりするのだが。
ロッカーを閉めて真田の方を見る前に声がかけられた。
「赤也、待ってろよ」
鍵をチャリと鳴らして掲げると真田は鞄を持ち上げた。
「もしかして…一緒に帰ってくれるんスか!」
「まぁな。約束しただろう」



つい昨日の事だった。
越前リョーマに切原赤也が負けた日。
副部長から殴られ先輩達から咎める言葉を次々と浴びせられた後の事だ。
「赤也、お前にはまだ話がある」
赤也はその一言で更に気が沈んだ。
真田は幸村に連絡を入れているようだった。
事の経過を報告しているのだろう。
つまり俺が負けたって事を。
幸村部長はどう思うだろうかと赤也は考えた。
そしてこんな最悪な日は無いだろうと思う。

今から学校に戻って部室など使える時間でない為か真田の家に連れて行かれる事になった。
どれだけ説教をされるのかわからず、それどころかまた殴られる可能性もあり赤也の足は遅れがちになる。
「真田副部長………もう俺の事なんか気にも留めてくれないんじゃないスか………」
「…だとすれば話など無い」
「………っスか……」
控え目にかけた声と同じ位の声音で返ってきた言葉に少し安心した。

それから無言のまま歩き続けてようやく真田の家に着いた。
夕陽はもう殆ど沈んでしまっていて黒い外郭しか見えないが数える程しか行った事が無いその家に抱く感想は特に変わらない。
無駄かと思うほど多い部屋、しかも全て和室である。
靴下を履いた足では滑りそうな程磨かれた廊下を歩いて一室に落ち着いた。
「話って……」
「まぁ、それは後でいい」
真田は畳の上に赤也を座らせると何処かへ行ってしまった。
赤也は息を吐き出す。
特に指示されてはいないのだが何となく正座をしなくてはならない気分で、あまり慣れない体勢で待った。

暫くすると障子が開いて桶を持った真田が現われた。
中には水と氷が入っている。
「顔を上げろ」
赤也はぼんやりと氷同士がぶつかり合う音を聞いていたがそれより遥かに低く音量のある声に自分の置かれている状況を思い出す。
どんな瞳に晒されるのか怖かったが逆らう事が出来ずに言われた通りに顔を上げた。
真田が怖かったと言うよりも、自分が負けた罪悪感だ。
しかし真田は普段と特に変わりない表情で淡々と赤也の頬の具合をみた。
頬に指先が触れて全身が緊張する。
熱心な真田の顔を見ていると頬の赤味が増して実際より酷く見られるのではないかと思えた。
真田は手早く氷水で冷やしたハンカチを絞って叩いた頬に宛がった。
「押さえておけ」
真田は言ったが赤也は自分の手でハンカチを押さえる事はしなかった。
「どういうつもりか知らんが……」
珍しく真田が言い辛そうにしているように思えて、赤也は僅かに強気を出す。
真田の手の上から両手でしっかりと頬に当たるハンカチを固定した。
濡れたハンカチが気持ち良い。
しかし冷たいそれからはみ出た指は温かい。
その熱にぼんやりとしながら赤也は心の中でその手の持ち主を数回呼ぶ。
「真田さんがやったんだから、責任取るべきです」
そう目を閉じて言った。
こうすれば真田が手を引いてしまう事が無いように思えた。
それは儚い希望に過ぎないのだが現実願い通りにその手は添えられたままだった。
結構な時間が経った気がして恐る恐る目を開けてみると真田も目を閉じていた。
何を考えているのだろう。
自分もそう思われているだろうが‥。
それにしてもあんな事を言われて怒らなかったのだろうか──

「もう温くなってしまったな」
赤也はまた声に意識を呼び戻される。
真田は目を開けると力をなくした赤也の手を自然に退けて紺色のハンカチを氷水に浸した。
赤也の腕は垂れて畳に静かに落ちた。
何となく覗きたくなった桶の中のハンカチは水の中で完全に一色になったように見えた。
氷の解け具合から判断するとやはり結構時間がたっていたようだ。
しかしそれでも充分に冷えた水が再び気持ち良く頬の腫れを引かせてくれるように思える。
「…………お前の気持ちを考えていた」
赤也はその言葉に驚いた。
『副部長がそんな事言うなんて……………それにさっきから声が優しい………』
赤也は奇妙な気分だった。
しかし悪い方のものではない。
「真田さん………」
真田は伏せていた目を赤也に向けた。
それはいつもと呼び方が違った所為である。
そうでなければ見る事はしなかった。
「それで………わかったんスか…………?」
赤也の目には涙が溜まっていた。
下を向いたり目を閉じようとしたりすれば零れていただろうが、赤也はしっかりと目を開いて正面を向いていたのでそれは留まっている。
真田はそれを見ても動揺した素振りは見せない。
「……………すまんな………」
真田は眉を歪めて言った。
「わからなか……っす…ね………」
赤也の閉じた目から二粒程続けて同じ軌道に乗って流れ落ちた。
水の音がして頬がまた冷やされる。
頬を触ったのとはまた違う動きで涙が拭われて、痺れた足を投げ出したいという勢いに任せて真田の胸元に凭れかかった。
其処は心地良いし本人の邪魔も無い事を良しとして赤也は強まる眠気の好きにさせた。
「真田さん………好き………っス……」
うわ言はもう脳で解せない。

気が付くと眠る前と殆ど同じような体勢だったのですぐに状況を思い出す事が出来た。
つい本能に逆らう努力もせずに人に体重をかけて寝るという暴挙に出てしまったのだ。
しかも今日自分を殴った真田副部長相手に。
赤也は自分でも“ヤバイ”という顔になっているのがわかった。
「赤也、何か言う事は無いのか?」
真田は怒っているのか怒っていないのかよくわからない顔なので赤也はとりあえず本気で謝る事にした。
「………すみま…………ごめんなさい…………」
「うむ……それはそうなのだがな………。そうでなくて…」
言い篭る真田に赤也は本気で首を傾げた。
「えっ………えーと………?」
「半分寝てただろう。あんなのは認めんぞ」
「えっ?俺何かしました?」
「覚えてないのか?」
そう言った真田はさっきよりも怒った表情に近くなったので赤也は困り果てる。
「あのな…」
真田はじっと赤也の目を見たまま顔を近付ける。
すると赤也の頬はピンク色になって目をギュッと瞑った。
「俺の事が好きなのか?赤也」
耳元に内緒話のように囁かれた言葉に「え」と「へ」が混ざったような奇声を発しながら赤也は跳び退った。
赤也が口を開きっぱなしにして驚いていると真田は堪え切れないといったように笑い始めた。
「……俺……知らない間に告白したんですか………?!?」
恥ずかしさに悶々となる赤也を見て真田は更に笑った。
「ふ…く部長〜………」
赤也は片腕で顔を隠していたが真田の顔を隙間から窺うと彼の顔も少し赤い事に気付く。
「副部長も照れてるっス…か……?」
「ああ……。実はあれからたまらなく嬉しくてずっとにやけてしまっていてな」
「真田副部長がっスか!!?」
そう言うと頭を小突かれたが痛くはなかった。
「とにかく……俺も…好きだからな………」
「両想いなんスね………。じゃあ、これからは一緒に帰りましょう」
赤也が満面の笑みで小指を差し出すと真田も応じた。



「真田副部長は約束は守る人っスからね」
何の意味か、それとも特に意味は無いのか、赤也は笑顔を作ってそう言った。
「…わかっているではないか」
「…………俺のせいで守れなくなったらどうします………?」
赤也は墓穴を掘ったと後悔したが実際訊いてみたくもあった。
「それはそうと、今日丸井と度の過ぎたじゃれ合いをしていたようだが…」
真田はあからさまに話題を逸らしたが赤也の方も必死で咄嗟には気が付かない。
「あれはブン太先輩が無理矢理やってきたんス!俺は悪くないっスよ!!」
「そうか……?」
「う………」
そう言えば真田副部長の事オヤジ呼ばわりしたんだっけ。
忘れていた自分の非をを思い出して赤也は言葉に詰まった。
「じゃ、帰りますか!」
赤也はにっこりと笑顔で言った。
「誤魔化しおって……」
そう言った真田も少しだけ笑っている。
「…の前に……」
部室を出る前に真田の袖を引いて、こっそり唇に唇で触れて
赤也はどうでも良い理由で怒っている副部長を置いて部室を飛び出した。








END










指きりげんまん…まァ真田だから古風で良しって事にして下さい。
えーと話ってのは口実で手当ての為と慰める為だったっつー事なんです。
勝手に(オイ!?)赤也は元気になったんでこれで良しっつー事で。
一応説明しときます;(話はどうなったんじゃ一体?と思っている人がいるかもしれんと思い)
今回はこんな関係が基本ですってのを小説にしようと思って。
希望としては立海制覇したいんですが管理人の体力ではどう転ぶかわかりません。
自分でももうどうなるかわからんのです…
とりあえず真田編……しか出来ないかもしれませんが。
真田は外では引っ付くなとか言ってる癖に二人きりの時は無茶苦茶甘いと良いな。
そんで個人的な事にはフランク(?)な所があれば良いな…とか思って書いた…んですが。
伝わらんですか…;
言葉の勉強をしなくてはならない……と思う今日この頃……ってコレ三年位前から言ってますが全然改善されませんね!
こんな小説でも楽しんで貰えるんでしょうか…。

20040726





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