今日は部活の朝練の為に一人早起きをしたのだが郵便受けを覗きに行くと自分宛の小包があった。
心当たりも無く差出人の名前も無かったが赤也は自分宛であればとりあえず貰っておけば良いと思いちょっと気味悪く思いつつも
早速袋を破って中身を取り出してみる。
どうやらプレゼント用の包装らしく、柄付きの紙にリボンが巻かれた箱が出てきた。
包装紙を破るとプラスチックケースの中に保護材の細かく切った紙が詰められており、メインはガラス製の小瓶だった。
「………水?…………な訳ないか……」
よく見ると微妙に着色してあるように思えた。
赤也は寝惚けた頭で考えたが瓶に書かれた英語の説明文をいくら眺めても答えが出る筈も無く…
しかし蓋を開けてみると一気に解決する。
「何だ香水か」
赤也は特に欲しいと思った事の無い物だったので残念に思う。
しかし問題はそこではなく差出人だ。
文句の一つでも言ってやろうともう一度外装を調べてみたがやはり名前は無かった。
その代わりに袋の下の方に引っかかっていた小さな紙切れに気付く。
“これはフェロモン香水です”
赤也の頭は英文を見た時のようにまた鈍くなって暫く静止してしまった。
それでも突然のプレゼントの影響で遅刻するような事は無く、このまま何事も無く学校へ着けばむしろいつもより大分早い位である。
不気味な事にかわりは無いが面白そうなので試してみる気になり、香水瓶を持って赤也は家を出た。
鞄の中でタプタプとなる音を聞きながら部室に向かう。
まずは部活で周りの反応を見れる。
レギュラーの部室で着替えている者はおらず、赤也は誰にも見られずに香水を取り出す事が出来た。
危ない成分かもしれないので肌に直接着けない為ジャージに噴き付ける。

テニスコートには真田が早々に来ていた。
真田と同じ位早く来ているであろう柳もいる。
赤也は柳が好きだったので(副部長の真田を差し置き)まず彼の所に走った。
「おはようございまーす!」
「おはよう赤也…」
何時も通りの挨拶をしようとした柳は眉を少し歪めて僅かに首を傾げた。
「赤也……、何したんだ?」
『気付いた気付いた』
赤也は笑い声を立ててその笑顔のまま(真田に聞こえないように)小声で言った。
「香水っスよ」
感想を訊いても柳は呆れた顔をしただけで取りあってくれない。
『もしかして効果無いんスかねぇ…』
ちょっと残念に思った赤也だ。
その時真田副部長が俺の行動を不審に思ったらしく近付いてきた。
『やべっ、叱られる…』
赤也は言い訳を考えるのに必死だった。
あの真田が香水などに良いイメージを持っている訳が無い。
まだ中学生でしかも男で部活中でなのに云々…と延々説教されるだろう。
しかし真田は──
「………お前………何か……たまらん匂いをさせてないか………?」
などと言って顔を寄せてきた。
『うわーーーー』
赤也の頭はパニックを起こす。
真田の仕草が怖いと言うより真田副部長相手に変な気分になってしまったみたいで少々ショックだ。
『やっぱ俺自身香水にやられてんのかな』
頭をクラクラさせながらそんな事を思っていると仁王がコートに顔を出した。
赤也のように乗り過ごしたりはしないが仁王もやや朝は苦手な方だった。
いつもとぼけた表情を作っているような仁王だが朝は天然の寝ぼけ眼らしい。
しかしその仁王も気付いたらしく鼻を一度ひくつかせるとこちらを向いた。
赤也は思わず肩を強張らせる。
「なんじゃ〜赤也……香水なんぞつけおって珍しいのう………何の香りなんじゃこれは?……何か…ええ気持ちやのう……」
「し、知らないっスよ!!」
赤也は慌てて首を振った。
フェロモン香水だなんて言えない。
更に追求してきそうな仁王から離れると何時の間にか部員の数が増えている事に気付く。
既にレギュラーは全員揃っていた。
ふとブン太と目が合い顔が向き合った瞬間匂いを嗅ぎつけたのかブン太は赤也のすぐ側までやってくる。
「んん!?なんかにおうぞ……!!………赤也………?」
ブン太は遠慮無しに鼻先をくんくんいわせながら赤也に抱きついた。
『うわーうわー』
赤也は何だか目が回ってきたように思えた。
ブン太は(真田副部長と違って)おそらく誰が見ても見目が良いのであまり自己嫌悪には陥らない事は救いだが。
「赤也…………。本当に……何か……いい…匂いがするな…………」
そう言ったジャッカルはコホンとわざと咳をして少し赤也から遠ざかった。
柳生は離れた場所でこちらに来る事も無くそっぽを向いていた。
この騒ぎに気付いていながら一言も無い所を見るとやはり何か尋常でない匂いを嗅ぎ取ったらしい。
レギュラー以外の部員も耳打ちし合っている様子が見える。
『やっぱりこの香水って効果アリ……?』
赤也はそう結論付けようとしたが一つ納得いかない事がある。
柳だけは単なる人口的な匂いとしか受け取らなかったようだ。
何で柳さんだけ………
肝心の柳さんが………
そう思うと赤也は残念でならなかった。
“柳蓮二には性欲が無い”で締めるのはあんまり酷だった。
それというのも赤也と柳は俗に言う恋人関係である為だった。
しかし今まで世間一般の恋人達がするような事をした事が無い。
二人の間の触れ合いというのは友達同士でする程度のものだ。
この日の赤也の練習する様子は冴えない物だったが原因は別にせよ周囲の人間も同じだった。
ただ柳だけは普段と変わらない様子で黙々と打ち込んでいたが。
「うーむ………これは夏バテか?それにしても俺もまだまだ修練不足……」
真田は全員たるんどるなどとブツブツ言いながら部室に向かう。
その後に他のレギュラーも続いた。

「それにしてもホント、何なんだよこの匂い。食いモンじゃねーよな?」
ブン太は部活が終わるとまた赤也にくっ付いて騒ぎ出した。
ジャッカルは赤也と喋る事が多い方だが今日は無口でブン太と話し相手を入れ替わったような状態だ。
柳が窓を開けるのを仁王と柳生は感慨深げな表情で見て各々納得したように数度頷く。
のろのろとジャージに手をかけた赤也に柳は「そのままで」と制した。
赤也は面食らった表情のまま何もせず制服に着替えていく他の者や柳を見ていた。
特に誰も何故なのかと柳に訊く事も無くて妙な雰囲気になり居心地が悪い。
「赤也、ちょっと残れ。悪いが皆先に出てくれないか」
全員が着替え終わって出て行く者が出始めた頃柳が言った。
「蓮二、一体どうしたのだ」
「弦一郎には関係ない」
素っ気無く言われて真田は僅かにむっとして何か言おうとするが仁王が肩に手をやって止めた。
「今は参謀に逆らわない方が身の為じゃ」
仁王は無表情で真田に言うとはよ来んしゃいと言いたげにゆっくりとした動作で部室を出ると扉を開けたまま出て行った。
真田は納得いかないながら仕方なく部室を後にする。

「赤也、見せてみろ」
赤也はなんとなくだが柳が怒っているように感じて恐る恐る瓶を差し出した。
柳は手に取って容器の中身の液体と記された文字を見る。
「………駄目だぞこんな物を使っては。特に学校でな。勿論バスの中でも問題だが」
そう言いながら赤也の手に返した。
赤也はばつの悪い顔でそれを鞄の中にしまう。
ドアを開いて外の様子を見た柳はそのままドアを開け放す。
「ついて来い」
明らかに普段より厳しい声に赤也は返事も出来ないまま部室を出るとドアを閉めて柳の背中を項垂れた格好で追って行く。
やがて校舎の端の水場に着いた。
『もっと近い場所にあるのに何故わざわざ…』と赤也が思っていると唐突に「脱げ」と柳が口にして驚く。
どういう意味なのか、何をされるのか、単なる自意識過剰?
色々思う事はあったが口に出す事もまとめる事も出来ないまま緊張して震えてしまう指でジャージの前を開き、ゆっくり肩から落とすと
持ってきていた鞄の上に乗せた。
柳の顔を窺ってみるがジャージだけで済まされない事は確認するまでも無かった。
シャツのボタンを外そうとして急に息が荒くなる。
それを隠そうとしても胸が不自然に大きく動いているのはどうしようもなかった。
少し涼しくなってきた頃だ。
天気が良い訳でもない朝はもうかなり肌寒くて辛かった。
赤也はジャージの上にシャツを落とすと唾を呑み込んで腰の辺りに手をやった。
「何をしている」
「え………」
『だって柳さんが脱げって…』
そう言おうと思ったが赤也は黙っていた。
「下まで脱いでどうする気だ」
赤也の頬が一気に赤くなり、おまけに汗までかいてきた。
お仕置きにストリップさせられてるなんて勘違いを本気でしていた自分が恥ずかしい為だ。
柳はそんな赤也に構わず濡らしたタオルで体を拭う。
冷たいと思ったが赤也は文句は言わない。
『柳さんがそんな事考える訳ないじゃん…そんな人だったら好きになってないし………』
でも好きになった後なら許せる気がする。
身震いと共に頭も少し平常に戻ってきた。
「…俺の為だったのなら少し嬉しいのだが」
もう許してくれたのか声を和らげて冗談のように柳が言う。
「うっ…すみません。興味本位っス」
赤也は正直に言った。
「嘘でもそうだと言う気にはなれないのか」
不満そうに眉を顰めた柳は少し幼い気がしてすっかり安心した赤也は無駄に大きい声で早口に言う。
「そりゃその気になってくれたらいいのにとは思いましたよ!でも柳さんいつもと全然変わらなかったじゃないスか」
「そんな事は無い。余計な考えを振り切ろうとして無駄に力が入ってしまっていた」
相変わらず体を拭い続けるタオルは既に拭いた場所を再び辿っていた。
「他の者の反応も気が気で無いな。ブン太はまぁ、いいだろう。ジャッカルと柳生もわきまえているようだし。仁王もあれで
それ程危険はない。しかし弦一郎は許せん。なんといやらしい!」
赤也は柳の稀な嫌悪の表情に驚き真田に同情しつつも笑った。
胸からタオルの水が一筋伝ってまた震えた赤也を柳は温める為に抱き締める。
柳のシャツに水が染み込んでいった。
「今度2人っきりの時にあの香水使いますから。そしたら‥」
「必要ない」
至近距離で額を額で軽く押して促された事に赤也は素直に応えた。
「わかったっス…」
香水より濃厚な香りが鼻腔を占め、脳が鮮烈な痺れを伝えてくる。
この時先輩や後輩でなくなったという意識に遅れて恋人の関係が始まったのだった。
家に帰った赤也がいくつかの箱や包みを取り出すついでに裸の瓶を取り除こうとしたがいくら鞄を探ってみても香水の入ったガラス瓶は
見つからなかった。





END










フェロモン香水なる物をネット上で発見しまして早速ネタに。
それまで知らなかった…
総受っぽくなったのでついでに誕生日用にしちゃおうって思って。
思い付きで行動…
フリーも思い付きです…
持ち帰る時は一言言って下さると嬉しい。
しかし誕生日ってついつい忘れちゃうんですよね。
好きになった時には過ぎたばかりとか多いし;
岳人も柳も逃しました。
そんなに日頃の行い悪いんですかね;
しかし結局差出人は謎のままこんなオチ。
すいません………
何故か真田の扱いが悪いのが申し訳ない………;
愛ですよこれは……
しかしまたギャグなのか何なのかよくわからない微妙な物に……





HOME



本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース